ずっとお城で暮らしてる

ずっとお城で暮らしてる

著:シャーリィ・ジャクスン

 

 

本屋さんで見かけ、タイトルと装丁に惹かれて。

久々に「他の作品も読みたい!」と思う作家さんだった。

やはりどうしてもアメリカ文学が好きらしい。

 

 

ストーリーは、一家惨殺が起こった屋敷で暮らす姉妹の日々。

閉鎖された空間で、自分たちのルールに則って、厳かに暮らしている。

そこに現れた客人によって、そのバランスが少しずつ狂ってきて……というもの。

妹の日々は正直異質で、普通ではないのに、読者としては客人によってバランスが狂う様が許せなくなる。

元の2人の世界に戻して!と思ってしまう。

 

日常と非日常の境を描く作家のようで、ホラーや恐怖小説に分類されることが多いらしい。

以前読んだ「絶望図書館」にも収録されていた。

 

個人的には彼女が子育ての様子を描いた「野蛮人との生活」が読みたいのだけれど、絶版(古本屋サイトで2万越え)だし、図書館にも入っていない…。

国会図書館にはもちろんあったけれど、持ち出せないし…。読みたいなあぁ〜

とりあえず他の作品を漁ってみよう。

格闘する者に⚪︎

格闘する者に⚪︎

著:三浦しをん

 

 

大好きな三浦さんのデビュー作。 自身の就職活動をベースに描かれた物語で、同じく出版社を受けた身としては面白かった。

 

各出版社の雰囲気だったり、退廃的な大学生の様子だったり、現実的でもあり、空想的でもある感じが良かった。 ご本人的にはあまり納得のいく出来ではない、と語っているようだが、デビュー作から「三浦しをん」の世界、そして読みやすい文体は確立されていたのだな、と。

 

そして、この作品で特にテーマとされていないけれど、ひっそりと潜んでいるのがジェンダーの問題。

主人公が出版社を受けた時の仕打ちは、今では考えられない待遇とはいえ、当時の出版界には蔓延っていたのだろうな。 「女はお茶汲み」 という潜在意識がそうさせている。

 

この描写を2000年に、しかもデビュー作で描いているとは。

舟を編む」を改めて読みたくなった。

こいぬとこねこのおかしな話

こいぬとこねこのおかしな話

著:ヨゼフ・チャペック

 

 

作者が、劇作家のカレル・チャペックのお兄さんとは!読み始めてから知った。

チェコの子どもたちの定番のような児童書とのことで、こいぬとこねこが人間の世界でユーモラスに暮らすようすを描いている。

 

ちょっと検討違いだったり、でも風刺的だったり。

クスリと笑えるので、大人でも楽しめる。

 

作者のチャペックがちゃっかり物語に登場するのも面白い。

これを機に、カレル・チャペックの作品も読んでみようと思う。

シャクルトンの大漂流

シャクルトンの大漂流

著:ウィリアム・グリル

 

大判の絵本。

北欧っぽい色鉛筆で描かれたタッチが優しく、色合いも綺麗で素敵。

内容は、20世紀初頭に南極横断に挑んだシャクルトンたちの物語。

 

結果を言ってしまえば、南極横断は失敗する。

でも南極大陸座礁してしまったなか、どのような工夫をして乗り越えたのか。

気持ちを保って、仲間たちのモチベーションを下げずに、ほぼみんなで生きて帰ることができたのか。

その冒険譚だった。

なのでストーリー展開が大きい訳ではない。

でも南極の大きな海で孤立無援になったり、みんなで工夫してキャンプを設営したり、そのドキドキやワクワクが優しいタッチの絵に表れていて、面白かった。

東京藝大物語

東京藝大物語
著:茂木健一郎



東京藝術大学で5年間非常勤講師を勤めた茂木氏による、フィクションでありノンフィクションである小説。


東京藝大のユニークな学生たちや、アートへの向き合い方、困難な入試、社会に飛び立つ前の卒業制作。

登場人物が実在するかどうかは関係なく、これはノンフィクションだと感じた。

そしてこれはかなり主観だけれども。
芸術大学というのは、他の大学よりもより教師と学生の距離が近いのではないだろうか。

自分の大学時代も、休日に一緒に美術館や演奏会に行く、ホームパーティーに呼ばれるという話を聞いた。
そして、「経験」をさせるために鞄持ちのようなことをさせる事も多かった。


それはある意味、芸術大学の教師と学生は、比較的対等で、違うのは経験だけ、だからではないだろうか。

もちろん学生は技術も未熟だろうが、才能の有無は年齢に関係がない。
大学で教えられることもあれば、教えられないことも多いはずだ。


そして「アート」という言葉のもとに自由に、そして自由になろうともがく学生の姿は、読んでいてヒリヒリした。

小説というより、かなり茂木氏の日記的な要素が強く、文章も読みやすいとはいえないが、勢いがあって楽しく読破してしまった。

ひとつ、脳科学者である茂木氏のかなり気になる記述が。
「色は光の波長の長さで決まる。しかしそれは相対的なものである」

なんと...。色の波長自体で色が見えているのではなく、周りの波長との違いでその色に見えているということ...?
色ってなんて曖昧なんだ。。。

二番目の悪者

二番目の悪者
著:林 木林


装丁やイラストが素敵で、期待ワクワクで読んだ。
が、内容が説教くさくて苦手であった。。。

小学生向けの絵本や児童書で、そこに教訓を入れるにしても、それが直接的過ぎる。

ストーリー的には、「自分が一番」と思っているワガママなライオンが、王様になるために心の優しいライオンの悪口を流し、国の動物たちがそれを信じてしまったためにワガママなライオンが王様に選ばれ、国が自滅する、というもの。

これはワガママなライオンが悪かったのか?
噂を自分の目で確かめず、責任転嫁をしていた国民ではないか?
という教訓。

傍観が罪である、というテーマはとても良い。
だったら、この國の滅亡をもっと客観的に描いて欲しかった。
要所要所に説教くさい一言が挟まっていて、途中から読む気が失せてしまった。


これは全く私の主観だけれど、日本で作られる絵本は説教くさいものが多い。
直接的に、言わなくていいことまで言ってしまう。

私の好きなクリス・ホートンの絵本だったり、それこそおさるのジョージだったり、ペネロペだったり。
悪いことをして、本人が困って、やめておけばよかったと後悔して、ちょっぴり毒のあるユーモアで最後を締める。

そうすると、笑いながら、ちょっとほろりとしながら、ハラハラしながら教訓を感じることができる。

それがひとつの絵本の役割ではないだろうか。

色彩の息子

色彩の息子

著:山田詠美

 

 

 

色にまつわる12編の短編集。

素敵なコンセプトだったけど、ストーリー的にはそこまで好みではなかった。

基本的に男女の少しドロドロとした展開が多くて、エロティックな描写が多い。

山田さんの、直接的ではないのに”そう”としか感じられない絶妙な表現が好きな身としては、ちょっと違ったかなーという印象。

 

でも

白熱電球の嘘」

「黒子の刻印」

は好きだった。

 

特に「黒子の刻印」は、人の劣等感が具現化されると、なるほどこういったものになるのかも、と感じた。

劣等感を感じつつ、それを乗り越えて幸せを手にしたのに、結局劣等感からそれを失う羽目になる。

 

「悔しい」とか「いいな」とか、人を羨む気持ちは力にもなるけれど、自分の足枷にもなるなと感じた。

 

とえいえこの本の素敵なところはその体裁。

それぞれの短編のテーマになっている色彩の”紙”が要所に挟み込んである。

しかもその色合いは絶妙だし、その色や短編の雰囲気を表す紙質を選んである。

文庫本なのになんて豪華。

 

紙の本が貴重になっていくからこそ、装丁や体裁にこだわっている本が欲しい。

値段はそれなりに上がるだろうけれど、そもそも本の値段が上がっているし。それならより素敵なものが欲しいと思う今日この頃。