著:ソン・ウォンピョン
以前から気になっていたものの、なかなか手にとる機会がなかった1冊。
今でも覚えているのは、一人で代官山のTSUTAYAをウロウロしていた時に面だしされていたこと。
独特な雰囲気を持つ表紙だったのと、私の中では昨今の韓国文学ブームの先駆け的な印象だった。
全体的に文章がとても読みやすく、ストーリーもどんどん進むので引っ張られ、あっという間に読み終わってしまった。
主人公は生まれつき脳の扁桃体(その形から『アーモンド』と呼ばれる)が小さく、感情を理解することができない男の子、ユンジェ。
ユンジェの身の回りではさまざまな出会いと別れ、喜怒哀楽の感情が繰り広げられるが、それを「感じる」ことができない。
でもだからこそ、ユンジェの周りの人の感情や、感情がわからないユンジェが「どう考えた」のか、が描写されていて、興味深い。
でもそれもしつこく描かれておらず、登場人物に起こった事実のみが書かれているので、その感情の名前や、実際どう思っていたかは、読者に委ねられる。
余韻のある素敵な文章だ、と思っていたら、著者は映画の脚本家とのこと。
文章が映像的だったのはそういうことか、と納得した。
読み終わってからの印象としては、本についているコピーがちょっと違うな、ということ。
「全世代の心を打つ、感動と希望の成長物語」
感動と希望?そうとは限らない、もっと淡々とした含みのある描写だったように思う。
私はユンジェの変化は感じられたが、それが希望かどうかは疑問だ。
でもユンジェの変化は、彼が新しい世界へ踏み出したと感じて、ドキドキはした。
このコピーに引きずられず、もっと純粋に、描かれている「感情の動きの描写」を感じた方が楽しめると思った。
この作者の文章が好きなので、他作も読んでみたい。